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伊藤製作所「豆畑支所」
   
 

タケと散歩

2011年10月09日(日)

車に乗り込むのに失敗することが多くなったタケなので、このごろはちょっとそこまでが多い。うちの前の道を角の教会まで歩いて、教会の駐車場を横切って帰ってくる。むかしなら、あたしの留守のとき、トメに散歩にいかせるとき、「角まででいいから」と言い置いていったとこなのである。しかしタケはそれがいやでたまらない。なかなか歩かない上にときどき立ち止まって「もうかえる」のそぶりをするので、いつ頃からかあたしは犬クッキーを手にもって、小さくかち割ったのを与えながら歩くようになった。タケの口でがぶっとやられるととても痛い。クッキーを口先にもっていって「タケ、ゆっくりゆっくり」というと、 ゆっくりかみつく努力はしてくれる。ニコの口はふわふわしていて指先がそっくりつつみこまれるようで、気持ちがいいほどだ。これはたんに大きさの違いなのか、あたしの指が腕ほど大きければ、タケの口も、ニコの口みたいにほっくりとあたしの腕じみた指をつつみこんでくれて、よだれだらだらまみれになったりしないのであろうか、などと毎回考える。この距離を歩くときは、タケにはリードをつけないで歩く。そうするといやいやながらついてくる。リードをつけるとふんばって抵抗して動かなくなるときがある。あたしが見るからタケだけど、知らない人がみたら、ああすごく年取った犬がいやいや散歩しているなあ、と見えるであろう。タケ、と呼んでも、むかしは瞬時にそばに来たものを、今は耳が遠くなって聞こえないから、ぜんぜん動かない。それでリードはつけなくても、タケから目を離すことができない。この道は、教会の手前はずっと園芸植物をつくる農場だったから、だれもいない。ところがそれが数年前になくなって今は新しい分譲地がたちつつある。その手前に左奥にのぼっていく道があり、家が何軒もある。そのなかの一軒に、ひどく獰猛なラブとわけのわからない小犬がいて、ときどき家を抜け出している。それがこっちの2匹をみるや、うなり声をあげて遅いかかってくるのだ。遊びかと思ったらほんとに組み敷いてくるのでおどろいた。若い頃のタケならひとたまりもない(あっちが)。血まみれにして治療費請求されるなんてこともなりかねなかったが、この頃は腰が砕けるばかりなので、何があっても大丈夫だ。タケの訓練士が、犬がケンカしはじめたら、自分(飼い主)が向こうの犬の前に出て行ってかまれろ、そのほうがずっと安くつく、と冗談のような本気なようなことをいっていたが、今となってはすごくよくわかる。ニコはケンカ腰になって襲い返しているが、なにぶんこの大きさなのでたいした戦力にはならない。タケは、散歩から帰ると牛乳をもらえる。それが楽しみで散歩にいきたがるのである。それが楽しみで楽しみで、まだニコが家の前でちんたらにおいを嗅いでいてもさっさと家の中に入ろうとする。それが楽しみで楽しみで、帰ると、自分のお皿の前に立ち尽くしている。楽しみで楽しみで、ついでもらうのが待ちきれない。「タケ、口のみしないでよ」といつも叱られるが、何にも聞こえてないし、かまうこっちゃないのである。で、自分のを飲んだらすぐにニコのお皿の前にいって、それをじーっとみつめている(ニコはタケが怖くて自分の牛乳に口がつけられない)。

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