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寄生獣と3月のライオン

2012年03月01日(木)

「アドルフに告ぐ」の口直し、といったら悪い意味になってしまう、いやとってもよかったんだけど、表現、創作の基本姿勢に疑いを持ったのは事実だ、手塚治虫だけでなく、あの頃の漫画には蔓延していた、というか、そもそもの基本の基本が、あの世界は文学やなにかとは大きくちがっていた、子ども心にそれを感じ取っていたというのを思い出しちゃった作品だった。で、その思い出を払拭しようと、「寄生獣」に読みふけっておる。これはだいぶ前にK森さんにどさっと送ってもらった。処分するところだったそうだ。最初と最後の絵はちがうが(スラムダンクの最初と最初ほどはちがわない)、漫画そのものが、作家の成長のあとを示してみせてOKなものなのだと考えれば、かえっておもしろい。最初は、ただの暗めの、奇想天外な少年漫画だった。大友の影響なんかもほの見えた。ぶこつなコマわりが好ましかった。それがどんどん深くなる。主人公の顔もどんどん深くなり、かわいくなる。パトレイバー(これは読んで読んで読みつくした)みたいな感じもするが、他人がかかわらないぶん、異物的にはさらに深い。他人がないから、どんどん「自分」と「異物」が深まる。心身の障害が真っ向から描かれる。絵が、うまくなってるのに、ときどきぎくしゃくしてくるところがまたすごい。この作品を知らずにあたしはさいしょ「ヒストリエ」から岩明均に入って(それはT浜さんにもらったのだ)驚愕したのである。で、もうひとつ読んでるのが「3月のライオン」だ。これも文句つけられないくらいいい。前作よりずっといい。前作はいまいち好きになれなかった。若さ若さと連呼するところがうっとうしかった。こなれない紡木たくっぽさがそこここにあるようで、天才たちの描き方もなんだかしらじらしかった。ストーリーも最後は破綻していた。でもこっちは、同じ絵柄なのに、すべての要素でレベルアップしている。ことばがいい、キャラがいい、なにより風景がすごい。こんなに風景がいい漫画が少女漫画にあったろうか。ってちょっと、コレ、少女漫画でOK? 将棋漫画かも。3月に7巻が出るそうだ。楽しみだけど4月まで待たないとだめかもしれない。

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