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伊藤製作所「豆畑支所」
   
 

タケとアトスとルイと老人

2014年06月16日(月)

Lの卒業パーティー。Lはトメの子ども期の親友で、思春期以降は離れてしまったが、Lの母のBとあたしはそのあともずっと仲良しだ。Lはいつもうちにいて、うちでごはんを食べ、日本語で歌もうたい、あたしもLには気楽な気持ちで話しかけ、冗談をいい、日本食を作って食べさせたものだ。Lはなんでもよく食べた。縁はまだある。Lの家族はタケの甥犬を飼っている。7歳になる。それがなんとまあ、タケそっくり。色も感じも。顔のあたりはタケの弟そっくり。体つきはタケそっくり。でも歩き方は弟そっくり。弟の妻犬は、小柄で険のある顔の犬だった。弟は熊みたいにたくましくてマッチョで、でも顔はどこか抜けてて愛嬌があった。タケは、ただただ美形だった(いや、親バカじゃなく)。その三匹のあれこれが微妙に組み合わさった姿をしていた。タケそっくり、と思ったら胸がつまった。アトス(弟)そっくりと思ったら、また胸がつまった。タケの最後の日々の老いた姿が目に焼き付いて離れない。タケの死んだ姿も。
Lの家に入りかけたとき、つれあいが段々につまずいて派手に転んだ。そしてその後、ずっとしょんぼりしていた。パーティーの中にいても、なにしろ見ただけで最高齢だし、杖ついてよろよろしてるし、耳が遠いから会話に加われないし、気持ち的にも、知らない人との表面的な会話には加われないし、加わりたくもないという風情で、一人でぽつねんとしているのだった。Sに先に連れて帰らせたが、やっぱり気になってあたしも早めに帰ってきた。でも仕事はする。というか仕事しかしない。仕事をするしか自分の身の置き所がないようだ。仕事と自分以外には、トメもあたしも、視界に入ってない(入れてるつもりだが入ってない)。
そういえば、ここ数週間、ルイが老いたなあと何度も思っている。もう13歳、小型犬とはいえ、押しも押されもせぬ老犬だ。午前中はただ寝ている。ただ立ってるだけでも、バランスをくずしてよろりと倒れる。すわればいいものを、へたりと寝転ぶ。食事を食い散らかす。今朝は、寝て食べていた(タケの末期もそうだった)。でもまだまだ食欲はある。散歩はたのしいが、上り坂はときどきだっこしてやる。朝の散歩は、寝てるのを起こすのが気の毒で、そっとニコだけ連れ出す。父が死んでからもう2年だ。11歳でこっちに連れてきた。この2年間、ルイの生活は安楽だ。食べ物は健康的でおいしく、散歩は野性的でどこまでもほっつき歩ける。最初のうちこそすきをみて外にさまよい出て保護されたりしたが、この頃はドアがあいていてもどこにもいかない。あたしを、そして代理のトメも、頼む人と信じて、みつめている。

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