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伊藤製作所「豆畑支所」
   
 

タケとさらなる老い

2012年07月01日(日)

少し前にも、タケが眠っていると生きてるのか死んでるのかわからないと書いたが、このごろはもっと切実に、死んでるんじゃないかと息をひそめて様子をうかがうことが多くなった。死骸により近づいた寝方をしているというより、タケの起居ふるまいがますます死に近くなってるので、ちょっと動かないと、あ、とうとう、と思ってしまうのである。前よりも、あたしの部屋でぐったりと寝たまま過ごしている。立ち上がろうとすると、床がすべるので立ち上がれなくなって、足をひらいたままぺしゃりとへたりこむ。まるで生まれたてのバンビのように、とS子が描写した。こないだはごはん中に、トメがとつぜん立ち上がって走っていったのでなにごとかと思ったら、タケのひーひー声を聞きつけて助けにかけつけたのであった。うまれたてのバンビみたいになって動けないでひーひー泣いていたそうだ。散歩から帰ったときにも、戸口の前の階段をあがるのがむずかしくなっていて、よろける、あるいは落ちる。それで、よろけるのを支えてやる。タケはまるでからだをあたしの脚やゴミ箱や冷蔵庫に投げつけるようにして先へすすむ。こないだは家に帰りついたときに、前庭でリスを追いかけるニコに気を取られていて(障害を飛び越える馬みたいに差低い柵を跳び越えて追いかけていった)はっと気がつくとタケがいない。もしやと思って道に出てみると、家の手前の歩道の段差のところでうち転び、バンビというより父のようにへたりこんでいて、そのまわりを学生が何人かで取り囲んでいた。助けあげにいくとみんなほっとしていた。ニコが表に飛び出しそうになったので、ダウン、と激しく言いつけるとしゅんとしてそこにすわった。これは、スワレじゃなくてフセのコマンドなんだがてきとうに坐るのがニコである。こっちはとっさにタケ用のコマンドを出しただけだ。タケの腰を父みたいに抱え上げながら、「ただ彼女は立ちあがれないだけだから心配ない」というと「why? 」と不審そうにきいてきた(まるであたしが虐待してるかのように)。「彼女はとても年取っているから」というと、おーーーー(納得)と。そもそも、散歩そのものも、よろよろと傾きながら歩くのだ。「かったるくてしょうがねえよ、歩きたくねえよ」という父の声がそこにかぶさってくる。段差のあるところは通れなくなったし、歩道が切れるところはすごく気を使って一歩一歩歩かせるようになった。寝たままうんこをもらしこぼすのは毎日のことになってすっかり慣れてしまった。今朝は少しだけごはんを残した。でも散歩にいくとき、あらやだ残してたのね、といわんばかりにがつがつときれいに食べあげようとしておった。食欲の問題じゃなく、目がわるくなってツブがみえないのと、首がまわらなくなってきれいになめ取れないのが理由らしい。父が、食べながらぼろぼろこぼしていたようなものだな。

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