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伊藤製作所「豆畑支所」
   
 

父をほめる

2012年01月18日(水)

きょうは父がよくしゃべった。しかし呂律がまわってなくて、酔っぱらってへべれけの人としゃべってるみたいだった。しかし内容はしっかりしていた。こないだのスイミン薬増量のせいだ。以前もこんなことがあり、薬がぬけなくて、朝おきられなくてふらふらして転んで、転ぶと精神的なダメージが大きい上に、転ぶのはたいてい歩いているときで、歩いているときというのはたいていトイレに行く途中で、転ぶついでにもらすことも多いので、それでよけいダメージが大きいのであった。それで主任ヘルパーのS村さんが薬のせいだと見抜いて、減らしてもらうことになったのであった。今日は、呂律のほかはしっかりしていて、「よく寝たから頭はすっきりしてる」と自分でもいっていて、芥川賞のことや、清盛のことや、時代劇専門チャンネルは字幕が出ないのがおおいからつまらないということや、それでこの頃洋画チャンネルを見てるということや、ヘルパーさんがきたら何食おうかなあ、かきあげにしてもらおうかなあということや、どんなにてんぷらが好きかということや、白鵬が負けたことや、タバコを吸い始めたことや(これにはぎょっとしたが、父が「おれ、もう90だよ? タバコやめたのも健康のためだろ、今から健康のために吸いたいのをやめたってどうしょうもない」というから、そのとーりと思わざるをえないのだった)、とにかく35分間しゃべりづめにしゃべっていた。おとうさんひとりでよくがんばってるもんね、といったら、「そうかい、一人でもそう思ってくれる人がいたらいいや、おれも自分でもよくやってるなあと思うもん」と、「そんなこと思ってくれるのは日本中、じゃないな、世界中だな、世界中にあんたひとりだよ」とうれしそうに言うのであった。あたし一人じゃないよ、ヘルパーさんたちは四人ともみんなそう思ってくれてるにちがいないし、Y夫たちも思ってくれてるにちがいないし、だから少なくとも7人はいるよ、といったら「そうかい」と。89になっても、こういう状況でも、やはり、よくやってる、がんばってるとほめられ、自分の存在を受け止めてもらうのはうれしいのことなのだなと思い直した、直したというのは、ほんとはもっともっと、ほめて、うけとめて、あげないといけないなと思いつつ、この頃の父の生き方があまりにも後ろ向きで、ろくにしゃべってもくれないので、どうしてもほめるような会話にならないのが気にかかっていて、無理してほめなきゃなあと、きのうも考えていたからだ。実際、「この頃しゃべるのがめんどくさくってさ、人に向き合ってちゃんとわかるようにはっきりしゃべったりするのがめんどくさくなっちゃうんだよ」と自分でも言っていた。でもおとうさん、それじゃどんどんボケちゃうじゃない? といったら、今日はとても前向きに「そうだね」と。だからますますほめたくなって、うんとほめた。達成感がある(あたしに)のはなぜだろう。

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