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       父とごきぶり 
        2011年11月03日(木) 
         父に朝食をつくったあと洗い物をしていたのである。父は一心不乱に新聞を読みながら朝食を食べていた。これは毎朝のことで、こっちを見もしないし口もきかない。洗い桶のなかに黒いものがうかんでいたので(父の目玉焼きにベビーリーフのサラダをつけたので、そのなかのくろっぽい葉かと思ったのだ)ひろいあげてみたら、むにっとしてるし質感があるし硬いし葉っぱじゃないし。で、それは、なんとでっかいごきぶりの死骸。あたしももうこういう年になり、昔はできなかったことにへーぜんと対処できる。昔さわれもしなかったものにもさわれ、殺すことだってできるのであるが、さすがにこれには肝を潰した。なにしろ指先につかみあげたときのくにっとした感じが残っていたのである。それで、きゃーーーきゃーーーと叫んでじたばたしておったら、父が、あの一心不乱の父が、どうしたの、と顔をあげたので、ごきぶりつかんじゃったーーと、言ったのはいいが、耳が遠くて聞こえないので、何回かくりかえしてるうちにやっとつたわり、何回もくりかえしたせいで、ごきぶりの感触はいっこうに消えていかず、手にいつまでも残り、さわいだり手をあらったりしておったところ、父が、よっこらしょと腰をあげ、いつもは5メートルしか歩けない足腰で、台所は箱根の山、トイレは唐天竺な感じで生きている父であるが、杖にすがって台所まで来て、ものにつかまりながら、ゴキブリをつまみあげて、ティッシュにくるんでゴミ箱に捨ててくれた。老いたりといえども父は父であった。情けなかった。自分が。 
        
      
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