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中沢けいコラム「豆の葉」
   
 

卒業生のみなさん

2012年03月25日(日)

 卒業おめでとうございます。卒業式があるということがこんなに楽しいものだとは知りませんでした。昨年の卒業生のみなさんも、1年遅れではありますが、卒業式の雰囲気を味わってもらえたことと思います。

 この1年間はみなさん、それぞれにお考えになることがたくさんあった1年間だったことでしょう。私にとって意外だったのは、言葉を信じる、言葉の力を取り戻そうということを考えたり、感じたりする人が多かったことを発見したことでした。言葉は無力だと、感じてもよい大災害を前にして、多くの人が言葉の力を、改めて信じようとしたことは、意外でしたが、また当然でもあると思いました。
 破壊は言葉を必要としません。しかし、何かを作ること、それは災害からの復興であるかもしれませんし、新しいエネルギー生産技術であるかもしれませんし、みなさんおひとりおひとりの生活を作ること、人生を築くこと、それらすべて、何かを作ることのために、人は言葉を必要とします。そのことを多くの人が、実感する場面が多い1年館だったのではないでしょうか。

 大学生活の4年間、みなさんにはたくさんの本を読んでもらうようにしました。自分のためにだけ読んでいると思わないでください。みなさんが本を読むのはほかの人のためでもあるのです。言葉はほかの人と、話をする、話を聞くために存在しています。自己と他者を結びつけるため、自己と他者を切り離すため、言葉は存在しています。だからみなさんが多くの本を読んで、ただたんに知識や情報を得るのではなく、ものの感じ方を学んだこと、それぞれに新しいものの感じ方を作り出す方法について考えたことは、みなさんご自身のためだけではなく、この世界を豊かにする人間の共同作業に、みなさんも加わったことを意味しています。
 どうぞみなさんで、豊かに暮らせる、豊かな精神を持った時代を作り上げてください。

 さようなら。またお会いできる日を楽しみにしています。どうぞお元気で。朗らかにお過ごしください。

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