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中沢けいコラム「豆の葉」
   
 

レジャーブーム

2010年09月13日(月)

 レジャーブームを検索したら毎日新聞の1961年の記事が出てきました。スキーにいったり、海水浴に出かけたり、そういう人が多くなった時期はそんな頃から始まっていたんだと、改めて、新聞記事に添えられた写真を眺めてしまいました。

 私の生まれた家は横浜の釣船屋でしたから、このレジャーブームの恩恵をまともに受けました。ただ、母はちょっと嘆いていました。なにを嘆いていたかというと「遊びと仕事の区別が付かないお客さんがふえちゃった」と言うのです。釣をしたら、釣船代以上の釣果が欲しいと言うお客さんが多くなったという嘆きです。漁師が自分の生業として釣をするんじゃないのだから、成果よりも海に出て魚を釣るという行為を楽しんで欲しいんですけど、そうも思いとおりの釣果がでないと文句がでるようになったそうです。ちょっとぼやいてみせるくらいなら、期待はずれの代償として笑えるんですけれども、他のお客さんが不愉快になるほど怒る人もいたりしたようです。時々「今まで遊んだことがない人は仕方がないかな」とつぶやいていました。

 それで10年に一度は「お前なんかお客じゃない」というお怒り爆発があって、これは我が家の語り草。母の「お客じゃない」宣言が出るとそれまでお客さんとして扱っていた人が、ただのふつうの人になるというわけ。お客さん扱いをされていた御仁は「御代はいらない」かわりに、猛烈な怒りの攻撃にさらされることになるのです。当の御仁は言うまでもなく、巻き込まれる子ども、つまり私や弟それに父もたいへんな被害にあうわけです。ほんとうに恐ろしい。けれども、うちの息子や娘は、このお祖母さんの逸話を、伝説として私から聞いて、それぞれ、アルバイト先や職場でクレイマー対応に苦慮した経験を持っているので、おもしろいレジェンドになっています。就活をした学生からも面接でクレイマー対応ができるかどうかを、ずいぶん念入りに聞かれたという話を聞きます。世の中、無理難題を吹きかけるクレイマーって、多いのでしょうね。

 「クレイマー、クレイマー」というメリル・ストリープが主演していた映画を見たのは、ちょうど息子が生まれた頃でした。はて? なんでレジャー・ブームの話がクレイマーの話になったのでしょうか? あ、野暮なお客の話からだった。

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