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中沢けいコラム「豆の葉」
   
 

ノーパンしゃぶしゃぶ

2010年02月04日(木)

 ノーパン喫茶なるものが30数年前に流行しました。大学の同級生で、このノーパン喫茶ではたらく女性をスカウトするというアルバイトをしていた学生がいました。銀座の路上でばったり出会った時に、仕事の内容を打ち明けられたのです。その時、聞いた話では、一人紹介すると10,000円、紹介した女性が実際に働くことを承諾すると30,000円の報酬がもらえるとのことでした。努力しだいで稼ぎを増やせるからと、授業料支払い直前のバイトだったようです。パンツをはかずにストッキングだけのウェイトレスさんのいる喫茶店って、いくらお給料がよくても、当たり前の求人広告だけじゃ人は集まらないとのことでした。そりゃ、そうだろうと思っていました。

 タイトルにしたノーパンしゃぶしゃぶが話題になったのは、およそ10年前。ノーパン喫茶流行から20年後のことです。大蔵省の役人が、このスキャンダラスな店で接待を受けていたということで、すっかり有名になったものです。

 私はこの時、首を傾げました。

 ノーパン喫茶ならぬノーパンしゃぶしゃぶなどというものが、流行していたら、汚職事件で有名になる前に、新たな風俗営業として週刊誌やスポーツ新聞がそれを書いているはずなのに、まったくそういうものを見かけなかったからです。それから、その頃はもう、大学へ出て講義を持っていましたが、学生からその手の話を聞くことはありませんでした。なにしろこの手の商売は「若い」人じゃなくっちゃあ、話にならないという商売ですから、大学生はいろんな意味でかかわっていて、流行していれば、なんらかの形で耳に入っていることが多いのです。
 二つ目の疑問は「喫茶」ならともかく卓上に生肉がならぶ「しゃぶしゃぶ」をノーパンの女性に給仕してもらいたいかというものです。私なら「否!」なんですけどね。さて、男の人はどんなものじゃろ? と考えて知り合いの編集者を捕まえて、意見を聞いてみました。だって生のお肉ですよ。いやノーパンのほうじゃなくって、しゃぶしゃぶのほうだけど。

 そうしたら「僕、いったことがあります」という編集者が現れました。なんでも、開店記念パーティにマスコミ関係者を大勢招いたそうです。そんな! 公官庁みたいなことをする風俗営業店なんて、聞いたことがありません。「ん? へんだな?」はますます「へんだな? へんだな? へんだ!」に変わったのです。そうこうするうちに開店記念パーティに招かれたのは、マスコミ関係者だけではないことが判ってきました。又聞きの話ですが、警視庁や警察関係者も招かれていたのだそうです。で、ほんとに出かけたのかどうか、までは知りませんが、その店の顧客名簿には公官庁の高級官僚の名前が並んでいるという噂話とジャーナリストから聞きました。
 なんだかヘンでしょ? 風俗営業というよりも、高級シティホテルか何かの営業みたいな感じがしませんか?

 センスが違うと感じたのです。生肉の件といい、開店記念パーティの件といい、お客さんのすけべ心を種にして稼がせてもらっている風俗営業のセンスじゃないなあと。結論を言うと、行政改革、霞ヶ関改革の絡んで高級官僚を陥れようとする策略なんじゃないかと疑いました。「そんなに大蔵省の名前を残したいのなら、検察や警察も検非違使にすればいい」と当時の橋本首相が言ったのもこの頃のことです。結果として大蔵省の名前はなくなりました。プライドが高い組織を改変するための策略だとしたら、ずいぶん、お金をかけるものです。開店記念パーティはご招待だったと聞いたので。

 現在の検察について疑問を呈している本を2冊読んでいます。一冊は産経新聞記者の石塚健司「特捜崩壊」(講談社)。それから郷原信郎「検察の正義」(ちくま新書)。前者はノーパンしゃぶしゃぶが話題になった頃からの特捜に疑問を呈していたので、その頃「これはへんだなあ」と感じたのを思い出したのでした。それから10数年。「検非違使にすればいい」と言った橋本龍太郎氏も鬼籍に入られていますが、今度の小沢一郎氏の政治資金規正法違反事件では、大掛かりな策略もなく、ただの言いがかりのような嫌疑で、国会議員が逮捕されているように私には見えます。

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