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中沢けいコラム「豆の葉」
   
 

近江今津のアイスティー

2015年08月08日(土)

 朝日新聞8月4日オピニオン欄。ジョン・ダワー氏インタビューで朝鮮戦争当時、ダレス米国国務長官が日本に再軍備を迫ったことが語られている。米国は日本が憲法を改正し再軍備するだろうと考えていた様子。しかし「専守防衛」の「自衛隊」で妥協が諮られた。押し付け憲法と言うが、占領下で作られた憲法をその後の70年の歴史の中(国際情勢の変化)で自分の(自国の)ものにしてきた。ジョン・ダワーの「敗北を抱きしめて」(岩波書店)はいわば日本国憲法を自国独自のものにする過程を克明に描き出している。ジョン・ダワー「敗北を抱きしめて」でいささか実感とズレを感じるところがあるのは「天皇」についての記述だ。ケネス・ルオフ「国民の天皇 戦後民主主義と天皇制」(岩波現代文庫)が補ってあまりある研究をしている。
 朝日新聞8月5日朝刊オピニオン欄。加藤陽子氏インタビュー。日中戦争から太平洋戦争へ。「国が国民を存亡の危機に陥れた」戦争とは何であったのかを語る。国体を守る戦争から「個」の尊厳への変化。加藤陽子氏が栄光学園高校の生徒とともに第一次世界大戦後から日中戦争へのプロセスを研究した「それでも、日本人は戦争を選んだ」(朝日出版社)は高校生の質問および問題の立て方が秀逸。なんとなくわかっているつもりのことを、構造的にとらえ直す(説明しなおす)契機を作り出している。戦争を語り継ぐとしばしば言われるが、遠く離れて初めて見えてくるものもあるので、研究者と高校生の対話はそれをうまく引き出しているのが「それでも、日本人は戦争を選んだ」(朝日出版社)であった。
 朝日新聞8月6日朝刊・オピニオン五百旗頭真氏インタビュー。米国の「力」(軍事)と「利益」(経済)と価値(政治的理想)について輪郭線のはっきりした見方を示す。田母神俊雄氏がアパグループ主催の懸賞論文「日本は侵略国家であったのか」で政府見解とは異なる論文で航空幕僚長の職を解任された直後に、五百旗頭真氏が防衛大学校校長に就任された。防衛大学校の教育プログラムを改めたと聞く。日韓双方の交流もそのなかに含まれた。
 戦後70年として朝日新聞の掲載したジョン・ダワー氏、加藤陽子氏、五百旗頭真氏のインタビューは現在の学術水準からみて妥当なものだと思われる。それに比べて、8月6日に出された「慰安婦問題、米研究者らに反論 日本の学者110人声明」は特異な見解と言わなければならない。そして、この特異な見解が安倍内閣の背景に存在している。このような声明には専門家はそれぞれの立場から反論してもらいたい。

 近江今津の琵琶湖の岸のカフェでアイスティーを飲みながらケネス・ルオフの「国民の天皇 戦後民主主義と天皇制」を読んでいた。ネットを離れてまとまったものを読む心楽しさがあった。

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