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中沢けいコラム「豆の葉」
   
 

救世軍の行進

2008年04月05日(土)

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  風で散ったさくらの花びらが吹き上げられて、8階の通路に散らばっていました。 

 法政大学で「編集実務B」の講義をされている谷村先生と神保町に行きました。すると、どこからともなく、かなり古風なブラスバンドの音が流れて来ました。

 太鼓とコルネットとタンバリン。そういう組み合わせなので、古風な音に聞こえるのです。救世軍の行進でした。みんな救世軍の制服を着て、足並みを揃えて行進していました。先頭に旗を持った人がいて、そのあとに銀色のコルネットを吹く人が二列で続き、大太鼓が入って、その後ろでタンバリンを打ち鳴らす人が2列でならぶという行進で、全体では30人くらいの隊列でした。夕闇が濃くなる時刻の行進で、会社帰りの人が足を止めて眺めていました。

 神保町の交差点のところに救世軍本営があります。私が救世軍のことを知ったのは林芙美子の小説に「救世軍の陣太の音」という表現があって、へえ、そんなクリスチャンの団体があるんだと感心したのが最初でした。大学に入ってから、神保町で救世軍本営を見つけました。クリスマスが近づくと制服の救世軍の人が、募金用の鍋のそばでラッパを吹いているのを見かけたりしました。

 谷村先生は駿河台下の近くにある高校に通っていて、神保町はなじみの町なのだそうですが、救世軍の行進を見るのは初めてだとおしゃってました。私も行進に行き逢うのは初めてでした。救世軍の行進は、本営を出て靖国通りを東に向かい、三省堂の前ですずらん通りにはいって本営に戻るというコースだったのでしょう。
 紺色の制服をきたちょっと太った中年の女性、若い女性、おじさんも制服で、かなり年齢もまちまちの人が楽器を演奏しながら足並みを揃えて夕暮れの町を歩いていました。制服は紺色でJRのと言うよりも、旧国鉄の駅員さんが来ていた感じにどことなく似ています。救世軍本営でなにか集会があるみたいで、最後尾の女性がスピーカーで、集会の案内をしていました。

 谷村先生が「写真を撮っておけばよかった」とおしゃっていましたが、私もそれをちょっと考えたのです。でも携帯電話のカメラでは、光がすくなすぎて、暗い感じになりそうでした。なんだか楽しそうという感じは携帯のカメラではでないかもしれないと、カメラを出すのをやめました。
 子どもだったら、あとをついて行きたくなるような光景でした。

 谷村先生と古本屋へ。それからランチョンで黒生ビールと鰊の酢漬けを食べました。谷村先生はランチョンのザワークラフトが御気に召したそうです。谷村先生から日芸にいる古本小僧の話を聞きました。古本は安くなっていて、大学生でもかなり買うことができるので、日芸の学生の中には古本屋めぐりをする人が多いのだそうです。谷村先生の話を聞きながらやっぱり日芸の学生って流行に敏感なんだなあと思いました。日芸には「古本屋研究会」があるそうです。

 神保町や、駿河台下には新しい古本屋さんができています。店を覗くと30代とおぼしき店主が座っていることも珍しくありません。店の棚を見ていると、なんだか世田谷や杉並あたりに住んでいた人の家の中を覗いているような気分になります。新開店の古本屋の棚に並んでいるような本が棚にならんでいた知り合いのお家に行ったときのことを思い出させる古本屋さんです。
 昔は古本屋の店主って、怖い感じがして、じろりとにらまれましたけど、今はなぜか古本屋の店主さんのほうが「このおばさん、なんだろう?」って怖そうな顔で私を見ています。今は昔。

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