中沢けい公式サイト 豆畑の友
ホーム プロフィール・著作リスト 中沢けいへの100の質問 中沢けいコラム「豆の葉」 お問い合わせ
中沢けいコラム「豆の葉」
   
 

このごろ食べた物。

2010年11月30日(火)

 大阪で伊藤比呂美さんと話していて「生ワインを飲んだ」と言ったら「それなんで書かないの」と言われてしまいました。

 食べる物の話を書くとき、いつも、頭をよぎることがひとつあります。それは、有名な輸入食品を扱うお店のPR誌に原稿を書いたときのことです。まだ原稿は原稿用紙に手書きの時代で、出来上がった原稿を家まで取りに来てもらっていたころです。PR誌の原稿をとりきてくれたのは年配の女性の編集者でした。あれこれと話込むうちに
「私、ほんとうは食べ物の話が嫌いなんです」
と打ち明けられました。オリジナルな缶詰や瓶詰め、それからジャムなどで有名なお店ですから、これにはちょっとびっくり。でも、食べる物の話はやたらにするものではないという戒め、今の言葉で言えば教育があったのを、その人とお話しているうちに思い出しました。
食べ物の話は下品だという教育がある時代までは、それほど古い昔ではなく、存在していました。今でも、そういうお家はあるようです。
 
 「食べ物の話は一番安全な話題なんだよ」と、これはもう、まったく逆の話になりますが、こういう知恵を授けてくれたのは吉行淳之介さんでした。私の家もどちらかといえば食べ物に「あれこれ言ってはいけない」「好き嫌いと言ってはいけない」「あれが食べたいこれが食べたいなどと言ってはいけない」という家でしたから、吉行さんの話を「へえ、そういうものか」と聞いたのでした。吉行さんの言う安全な話題というのは「政治」や「経済」や「宗教」などの意見が対立しやすい話題にくらべれば「食物」の話題は安全で、その場にいる人がみんな楽しめると、そういうことだったのでしょう。
 吉行さんの授けてくれた知恵は、いろいろな立場の人と社交的におつきあいしなければいけない男の人の感覚。それにたいして「食物のことをあれこれ言うな」はお台所を預かる女の人の感覚。そんな感じなのでしょうか。

 で、生ワイン。葡萄の実が入ったままのワインをその場で絞ってもらって飲みます。最初は白濁しているけれども、みるみるうちに透明になって行きます。母とドイツを旅行した時、ロマンチック街道にあったワイン・カーブで飲んでいらいの生ワインでした。最初は葡萄ジュースのようなさわやかな味。それからだんだんお酒らしさが舌の上を転がりだすのです。

 伊藤さんたちとてっちりと串カツ。これは伊藤さんのコラムにあるとおり。フグはやっぱり大阪がおいしい。ワニの串揚げもちょっぴり食べさせてもらいました。弾力のある豚肉のような感じ。このごろ食べた物です。

↓前の日記 / 次の日記↑

   
談話室 リンク集「豆の茎」 メルマガ「豆蔵通信」 サイトマップ