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「文学フリマ」ノート
2005年11月24日

 文学フリマの前日11月19日は日大芸術学部院生のフィールドワークで皇居周辺をうろうろした。お堀端ではなぜかトレーニング中の高橋尚子選手に行き逢うというハプニングもあった。御茶ノ水から神田明神、靖国神社外堀の法政大学へ回って解散した時には10時近かった。翌日、いささか遅く目を覚まして、紙袋にばたばたとフリマ出店用の本を詰め込んであたふたとバス停に駆けつけたところで日大の名古屋君から電話。
「今、起きたところなので、30分ほど遅れます」
 という連絡だった。名古屋君もフィールドワークにつきあってくれていたのだ。で、彼が30分遅れるなら、まだ荷物を詰め替えても大丈夫だなと判断して家に引き返す。
 本は重いので紙袋では秋葉原までもつかどうかいささか不安だった。おおあわてで旅行用キャリーケースに本を詰め替えた。



 販売用の本は以下のようなもの。
「法政文芸創刊号」「現代小説研究1」「現代小説研究2」(これは法政の藤村先生が出している雑誌)「十六夜」(法政大学文芸コース中沢昼ゼミ)「障子にメアリー」(法政大学文芸コース夜ゼミ 法政には昼ゼミと夜ゼミがあって、どちらでも好きな時間を選べる)とここまでは大学関係。勝又先生が中心で出している「私小説研究」は直接会場へ梅沢先生が持ってきてくれる約束になっていた。
「日本中国女性作家会議資料」「日韓文学者会議IN青森資料集」「日韓国文学者会議原州資料集」(韓国語バージョン)
「日印作家会議山形資料集」いずれも市販されていないけれども日本では初訳の短編小説や詩が収録されていたり、発表用レジュメが収録されている。
 このほかにフリーペーパー「ルクツゥン」を豆蔵さんが持参することになっていた。

 で、キャリーケースをごろごろと引きながら二週間前には同じキャリーケースを引っ張って台北から帰ってきたんだなあと思う。秋葉原改札で、名古屋君と落ち合う。駅がすっかり新しくなっていて文学フリマ会場の中小企業振興会館が駅を出るとすぐに見えた。初参加なのにぜんぜん緊張感なしの二人の視界には、なにやら行列が……。競馬好きの名古屋君が荷物を持ってくれていたので、場外馬券売場を連想する。
「秋葉原にも場外ができたんだっけ?」
「さあ、聞いてません」
「マイルシップチャンピオンだものね」
「先生、マイルチャンピオンシップです」
 昔、いかりや長介と仲本工事が馬鹿兄弟のコントをやっていたけれども、なんだかあれに似た会話をしながら、横断報道を渡った。行列は中小企業振興会館の建物の中へと繋がっている。それでもにわかには信じられずなにか別の催しでもあるのだろうとたかをくくっていた。なにしろものを書いたり読んだりする夜更かし人間が午前中から行列をつくるなんての想像を絶した光景だったからだ。午前中は人も少ないからぽつぽつ用意すればいいやくらいの気持ちでいたが、目の前の行列が文学フリマの受付へ続いているのを見るや否やとたんに駆け足になる。会場入り口の階段を駆け上がり、事務局も受付も無視してそのまま割り当てのブースへ。ブースは昨日、法政の藤村研究室のパソコンで確認してあったからいいようなものの、藤村先生の質問がなかったらそんなことはしてないはずだったから、大パニックになっていたかもしれない。

 あたりを見回せばもうどこも準備万端で開場を待つばかりになっている。「名古屋、並べろ! 本を並べろ!」と叫びつつ、ふっと見れば斜め向かいには澄ました顔の「太平洋プロジェクト」の寶君がいる。こちらは展示用の什器まで製作している。で、隣のブースは机にきれいな布がかかっていた。机に布をかけているブースは多い。そういえば、昨晩、押入れを開けたら朗読会のときに使ったオレンジとグリーンの布がはらりと落ちてきたのだが、あれは神のご加護だったかって、そのご加護を無視しちゃったんだからしょうがない。あわてて並べているうちにも、お客さんはどんどんは会場に入ってくる。で、二階を目指す。二階に何かあるらしいけれども、何があるのかなんてことを考えている暇はない。会場一分前まで何も考えてなかった報いで、3分間でインスタントラーメンのごとくにあらゆることを済ませなくちゃならない。澄まして座っている寶君がうらやましいと思う暇もなし。名古屋君には鋏を買いに行ってもらう。
 梅沢先生が現れる。「私小説研究」はバックナンバーをそろえて持ってきてくれた。あわてずさわがす、きちんと品物を並べてくれる。で、「値札」を書かなくちゃと、マジックを探してごそごそとキャリーバックをあさっているところに読売新聞の持田記者が「こんにちは」ってこれはどっかで見た風景だとデジャ・ビューに襲われる。そうそう成田空港でキャリーバッグをあさっていた時、やはり持田記者が来て「こんにちは」でそのまま、台北までの飛行機の隣の席に座っていたのだ。
 このへんから頭が混乱してくる。鋏を買ってきた名古屋君に今度はキャリーバッグの中から出てきた郵便物の投函を頼む。だって発見した時にやらないとまたずっとキャリーバッグの中に入ったままになっちゃうんだもの。で「ついでにお茶を買ってきましょうか」となかなか気の利いたことをいうので、それも頼む。で、持参した画用紙に値段を書き始めた。そこにパーソナルメディア社の加茂さんがにこにこ顔で現れる。「あああ、あ、あ」としばし絶句していたのは上野と秋葉原でやっているユビキタス実験の「ユビキタス」の単語が出なかったからだ。カタカナ語苦手です。ユビキタス実験と秋葉原ダイビルでやっている展示もみなくちゃと思いながら加茂さんと東京国際フォーラムのトロンショーの話をする。加茂さんには日中女性作家会議の資料集を買ってもらった。それから藤村先生。会場を一回りして、知り合いのブースで雑誌を買ったと言っていた。法政は学園祭の最中なので、藤村先生はこれから学校に行くそうだ。

 大急ぎで値札を書いて、やれやれひとだんらくがつく。ほっとしたところに帽子を被った豆蔵さんが未卯ちゃんを連れて現れる。で、おもむろに「ルクツゥン」を出し
「黒と赤と青のマジック貸して下さい」
 と、さらさらとポップを立ったまま書いてしまったのに感心する。こういうことをやらせると豆蔵はうまいんだなあと思った瞬間になぜか学生時代にお茶の水の某書店でレジに立っていたときのことが突然よみがえる。

 紅茶にマドレーヌを浸して食べてプルーストもびっくりなくらいの鮮やかなよみがえりかただった。その時は友人のピンチヒッターで、書店のレジでアルバイトをしていた。で、自分の本がレジ前に積んであったんだけど、それをさんざんけなした学生グループがいて、レジの前でまさか「自分が著者だ」とも言えずに青ざめてしまった。こういうのをトラウマって言うのだろう。 どうも急激に会場に飛び込んだのが悪かったみたい。臆病な日本の私。
 幸い、トラとウマは殴りあったり蹴りあったりはせず、ロシア式抱擁をしている。ヒゲだらけの口のトラがウマと抱き合って、馬面にぶちゅとキスをしているのである。ちょっと、どういう顔をしいいのか判らない心境で、ブースに座っていた。「♪窓の外は神田川〜」って、え、神田川じゃないの? ともかく背中には川が流れていて、ガラス越しにまぶしい日差しが入ってくる。目の前には日大や法政の知った顔が通り過ぎて行く。隣は梅沢先生である。頭の中ではトラとウマがロシア式抱擁を繰り返している。それなのに、身体は視覚的刺激に反応して学校に出勤しているような感じになって来る。シュールだ。隣の梅沢先生は落ち着いてお客さんに「私小説研究」の説明をしている。会場を一回りしてきた豆蔵さんがお写真をぱちり。なぜか小学生みたいにVサインを出してしまった。トラウマ頭+教員的身体反応=小学生か?

 事務局代表の望月君が来て行列は「桜庭一樹と桜坂洋がコラボレーション作品を出品するという情報がネットで流れたから」と教えてくれた。そのほかに同人誌「銀座線」の皆さんや「零文学」の皆さんが来てくれる。二階に流れていたお客さんもそろそろと一階に降りてきて、あっちのブースこっちのブースを覗いて歩いている。むかいの「太平洋」さんは、私の頭の中でトラとウマがロシア式抱擁を繰り返している間に売り子が寶君から河上さんに交代していた。その間にもぽつぽつ、自分のブースにもお客さんがあって、本を買ってくれる。本を買ったあとで名刺をぱらりと落としてくれたお客さんもあった。ようやく身体が場所に馴染んでくる。トラもウマもロシア式抱擁のキスのくり返しに飽きてきたみたいだ。
 並べた本ではゼミ雑誌がよく売れた。もともと昼ゼミ「十六夜」は刷り部数が少ないので一冊しかもって来られなかった。これはすぐになくなった。夜ゼミの「障子にメアリー」は5冊全てが早い時間になくなった。で、これから市谷の法政大学まで行って追加のゼミ雑誌を持ってくるかどうか相談する。学園祭なので研究室にいつものように入れるかどうかが判らない。名古屋君が自分のかばんの中から日大の比恒ゼミの雑誌を出す。
「これ売っちゃいましょうか」
「あ、売ろう。売ろう」
 ってまた馬鹿兄弟のノリになっている。でも、日大のゼミ雑誌って学校の予算で作っているんだから値段をつけて売っちゃまずいんじゃないかなという話になって、少し頭が冷える。
「しかも中古だし……」
 と名古屋君。法政のゼミ雑誌はゼミ生が自前で作っている。
 値段のことは少しばかり事前に考えていて、ゼミ誌の「500円」は高いんじゃないかという意見もあって、「100円でいい」とか「50円」というゼミ生もいたけれども、500円というのはだいたい紙代印刷代の原価に近い数字なので、原価くらいはなんとかしようということで「500円」にした。「法政文芸」は1000円。
「私小説研究」は定価800円と決まっていて、この日は10%オフで720円。
「現代文芸研究」はやはり定価800円で、閉会まぢかになったら600円まで下げていいというのが藤村先生の指示。そのほか、外国作家との会議の資料集は1000円にした。原州の日韓文学者会議資料集韓国語版は梅沢先生が韓国に行くから「お土産に」と買ってくれた。韓国語の勉強もしているらしい。日本の作家の作品が翻訳されているので対照して読むのにちょうどいいということだった。資料集の1000円は文学フリマでは高いほうだったが、こちらは翻訳料などもあるので、かなりの原価割れになっている。ほかのブースでは100円とか200円あるいは300円という値段の雑誌も多かった。
 「ルクツゥン」はもともとフリーペーパーなので無料。で、そのルクトゥンを見ていた男の人が「今、財布持ってくるから」と言うので「フリーペーパーですからお持ち下さい」というと「じゃあ、これもあげる」ともらったのは「世界で一番高い5円」の野田吉一さんの「鯉神」だった。「来年度(06年)より値上げのお願い」というちらしが挟み込んであって「来年度よりの定価は、コストの50〜70パーセントを考えております。むろんなお、赤字覚悟です」とあった。
 名古屋君の比恒ゼミの雑誌は無料で配ることにして(と言っても一冊しかないけれども)ゼミ雑誌がなくなったあとに置いておいた。

 腰が落ちついてくると、今度は好奇心がうずきだす。トラもウマもいささか呆れ顔になっていた。梅沢先生は御用があるとのことで、交代の大西さんが来てくれた。この頃になるとブースは大西さんと名古屋君にほとんど任せて場内をうろうろ。

 というわけで、この日購入したりもらったりした雑誌は以下のとおり。

「鯉神」    野田吉一
「太平洋」  
「早稲田文学 フリーペパー1号」
「ナカザワゼミ」CD版   明治大学法学部のゼミでした。
「女流パチプロの優雅な日々」  岡田安里
「かみのうた」
「読ではいけない」
「婦人文芸」81号
「零文学」1号2号3号
「幸い探して」  梁瀬陽子
「木曜日」18号19号20号21号
「銀座線」第10号
「十二ヶ月」2号
「もう、どうだっていいじゃん」
「若木文学」 2005年 前期
「風の月」
「樹の月」
「環の月」
「Satze Katze 2」
 
以上です。

 怒涛の5時間でした。で、そろそろ閉会の16時が近づいた頃に「太平洋」さんに打ち上げを便乗させてもらうように頼んだ。で16時。「閉会です」のアナウンスで二階からも一階フロアからも拍手が沸き起こる。で、またばたばたとキャリーケースに荷物を詰め込んで「さあ、これを着払いの宅急便に出してみんなで打ち上げに行くぞ」と手を叩いたら、着払いの宅急便伝票が見あたらない。どうもキャリーバッグの中に入れてしまったらしい。キャリーバッグをあけようとしたら、今度は鍵が開かない。ダイヤル式錠前の数字を合わせてもうんともすんとも言わない。数字は間違ってないのにこれはどうしたことかと一瞬焦ったが、伝票をもう一枚もらって家に荷物を送り、鍵は壊すことにした。

 翌日、家についたキャリーバッグの鍵を「もしかすると、偶然にナンバーを変える操作をしてしまったのかもしれない」と類推して、ためしにひとつだけ番号をずらしてみたらあっさりと開いた。

 ご協力いただいた皆さん、本をお買い上げいただいた皆さんどうもありがとうございます。来年はオリジナルエディションの作品を持って文学フリマに参加したいと思います。どんなエディションにするのかはこれからじっくり(3分間ではなく)考えてみます。

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「豆畑の朗読会」演目ノート
2005年06月26日

豆蔵(ながしろばんり、vo,g)Website

 ・6月の雨の夜、チルチルミチルは 作詞作曲:友部正人
 6月の夜の朗読会ということでオープニングはこれがよかろうと。惜しむらくはこの曲のときにしっかり雨を降らしてくれればというところ。むしろ雨を呼んでしまいました。
 ・夜明け前 
作詞作曲:ながしろばんり
 9.11と同時に生まれて、三年たって徐々に曲がついていった。曲で語るという「希釈」がなければ、とても飲み込めないし、吐き出せない。
 ・探索鉄道デ 作詞:ヨケマキル 作曲:ながしろばんり
 ネット詩界の天才愉快犯・ヨケマキル作品に頼み込んで曲をつけさせてもらった。ながしろライブではスタンダードのこの一曲を、初めてお目にかかる方へ。

太平洋プロジェクト(寳洋平,txt、河上大樹,music、下原資翠,T-shirt)→Website
 ・寶洋平「サーカステント」(書き下ろし)

 童話作家・安房直子の短編「青い花」からインスパイアを受け、その世界をベースに続きを書いた作品が「サーカステント」です。河上さんと下原さんにも「青い花」を読んでもらったうえで、音楽、Tシャツをそれぞれ用意してもらいました。

そら吹き(氷月そら,fg+加藤一真,vn)
→website
 ・ベートーヴェン「三つの二重奏曲(Drei Duos)より第一曲



深山洋平(reading)+山本慧之(music)→Website →Website
 ・深山洋平「永遠」(書き下ろし)
 本来はもっと長い話になるようなイメージを持っていたのですが、朗読会用に少しストーリー性をもたせました。イメージよりもずっと良い作品になってくれたように思います。音楽選びも予想よりは楽に進められました。聞いてくださった方に映像を届けやすい音楽を選べたと思います。
 作品のテーマなどは読んでくださった方、朗読を聴いてくださった方の想像に任せます。皆さんの心に少しでもこの作品が留まってくれれば幸いです。
 音楽は大学の友人が担当してくれました。ちょっとしたハプニングもありましたが、それはご愛嬌。本番2時間前に音を流す人物がいないことに気付き、「音、流して。」と就活帰りの彼を呼び出し急遽音楽担当に。たまたま会場の近くにいたからいいものの、いなかったらどうなってたことやら。これでは何もないほうがおかしいですよね。

中沢けい(reading)

 中沢けい「雨の日と青い鳥」(光村図書 国語2所載)

 2006年から使用予定の中学校2年生用国語教科書のための書き下ろし作品 ただし朗読会バージョン。


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マニエリストQさんによる朗読会レポート「豆畑には蔵がある」
2005年06月16日
 写真にマウスを載せると解説が、クリックすると大きなサイズになります。

 パーソナルメディア社からお祝いの花籠をいただきました!3席ばかり後方、最後尾の席から、女性の左頬を少しばかり見ることができて、その頬がいかにも楽し気に動いている。楽し気に動くほっぺとはどんな動き かと聞かれても、さあどんなだろう、とにかく楽しそうなんだよ、と言うしかない。楽しいほっぺの女性と魅力的な朗読者たち。楽しさが2倍になってマル得な、初めての「豆畑の朗読会」は、いま真っ盛りなのだった……。

 2005年6月11日土曜日。紫陽花、曇天。思い出したかのように時たまぱらつく小さな雨粒。
 黒のロングスカートできめた中沢さんが、会場入り口の外に灰皿を持ち出し、満面の笑みで煙草をふかしていました。開演前の余裕か、はたまた緊張か。少しばかり紅潮した中沢さんのお顔。挨拶を交わしたドスのきいたその声で、まさか緊張のはずがあるわけなかろうとすぐに分かりました。すでに会場の席を占めている観客と、三々五々やってくる「豆畑ファン」に、うれしさいっぱいの中沢さんなのでありました(多分そうだったのでしょう)。
会場は千代田区神田は小川町の小川町画廊。普段は画廊の、外から丸見えで、適度な広さの白い会場です。中に入ると外の曇天と比してその白い空間が眩しく、正面の壁面を飾る対の垂れ布が唯一、淡い彩りで清楚な感じを漂わせています。まさしく豆畑色です。
 ところで、このたびレポートを仰せつかった私ですが、私、酔いました。もちろん朗読会にもですが、会場に用意されていたあの素敵な赤ワインに酔ってし まったのです。チーズがおいしかったなあ……未卯さんごちそうさまでした。ですので、細部の記憶がございません。そんな奴がなんでレポートするかと言います と、これも二次会での酔った勢いで、中沢さんの掛け声に思わず挙手してしまったしだいです。後悔の盆踊りです。

豆蔵師匠です。今回の選曲は朗読会仕様だとか。  さて、朗読会。まずは「豆畑の友」管理人、豆蔵さんがトップバッターです。
 いきなりホームランがかっ飛ばされました。そういっちゃあなんですが、あの風体で、なんで、どこから、あのような、人心を惑わすくすぐるお声が出るのでしょう。時々宙をさまよう視線がとても愛らしいです。寺門に人を脅す仁王様とまで中沢さんに称されているのに(ちなみに私は彼を大仏頭と呼んでます)。実
を申しますと、豆蔵さんの音楽は何度か聴いています。しかし、今回はいつもに増して素敵でした。気合い入りまくりでした。最後の節の唸りともいえる、詩を歌ったものは凄かったです。手術台の上で出合った蝙蝠傘と便器(失礼)みたいに、あれはまさしくシュールです。異質なものの出合いそのものです。人を驚かすのは威風堂々の風体だけではなかったのですね。堪能いたしました。
 通行人が物珍し気に会場を横目にしながら通り過ぎていきます。観客の皆さんは、それぞれ赤ワイン、白ワイン、オレンジジュースなどを飲みながらの観戦? です。席は満席になっています。途中からやってくる人もいらっしゃいました。
 豆蔵さんのホームランに気をよくしたのか、皆さんの緊張もほぐれたようです。

太平洋プロジェクトの寶さん。シャツのデザインは今回の作品に合わせた特別なものです。  そして、大平洋プロジェクトさんの出番です。
 まずはネーミングが壮大です。私はてっきりどこかの会社のお名前かとばかり思っていました。なにを作ってるチームなんだろうと考えたりもしました。気の合ったサラリーマン同士が集って活動してるんだなきっとなどと、まあその辺り
は結局定かではなかったのですが、朗読をされた寶洋平さんの説明によると、自分たちは世界に向かってバラエティーなことをやっていくんだということでした。納得。その日のユニホームも下原資翠さんによるデザインのTシャツということでした。朗読の内容はその場にいた人のお楽しみ。音楽担当は河上大樹さん。終わったあとで緊張が解けたのか、一服しながら、音楽が予定と違ってたろうがと楽しくやりあってました(ごめんなさい。これはひょっとしたら後半の深山洋平さんのほうだったかも。酔ってます)。

「そら吹き」の氷月さんと加藤さん。右端にドリンク担当の未卯さんも見えます。  いよいよです。わがQBOOKSのアイドル詩人氷月そらちゃんのお出まし。手にしたカップのワインがひとごとながら緊張で微かに波立っております(そんなわけ ありゃしません。カラですもん。そっと未卯さんに目配せ)。実はこれまた、そらさんのファゴットを聴くのは二度目の私なのです。けれど、こんなにも間近 で、そしてヴァイオリンとの二重奏を聴くのは、今日がはじめてです。
 いやー、またまた大ホームラン! 演奏曲はベートーヴェンの「3つの二重奏曲」の第1曲。ヴァイオリンの加藤一真さんとファゴットそらさんの「そら吹き」さんは、もうなんというか、一心同体です。絶妙な掛け合い漫才みたいです(もち、ボケ方は一真さん)。ジェラシーさえ感じます。「楽譜は作曲家からの一様の手紙で、それを音楽で朗読する」と当日の立派なパンフレットにありましたが、こんな素敵な朗読もあったのですね。恐るべし朗読。奥、深し。金鳥蚊捕りも夏間近。

 と、単独ホームラン続きですでに得点3を重ねる豆畑チームではありますが、中沢監督はそれでも情け容赦なく、眼光鋭く叫ぶのであります。
「畳み込めー!」
 中沢さんがこんなにもテンション高いとは意外だった……ひょっとして、比呂美さんも……ブルッ。カリフォルニアの陽気は如何なものですか?

深山さん。CDを掛ける順番が違っていたのは実はこちらですよQさん(^^;)  はい。それはさておき、深山洋平さんです。
 朗読が今回で3回目ということですが、これだけのものはそうそうできるものではないです。朗読内容はこれもまた居合わせた人だけのお楽しみ。かなりの長 丁場ともいえる圧巻ものでした。これこそ朗読の神髄「聴かせる」というものなのでしょう。駄目押しの長大ホームランです。ポップなお兄さんも頷くように聞 き入っている姿が印象的でした。朗読に限らず、会という催しの素晴らしさは、こういった様々な人がある意味偶然に出合い、そして一点に集中できる劇的な空 間を共有できるということなのでしょう。それは、価値観は個々にそれぞれ、という前提でのことではあるのですが。深山さんとは一服しつつ少しお話ができま した。ぜひ、うちの次の朗読会にも参加してくださいね。
 外はいささか暗くなり、少しばかりちらほらと雨?

真打登場。教科書の文章はなんと教科書用の書き下ろし。  いよいよもって、豆畑の朗読会はラストのリーディングを迎えようとしているのです。それは全観客の待望でした。『うさぎとトランペット』が生で味わえるのです。突如、雷光一閃、稲妻。中沢けいの黒い影が背後の白い壁に巨大に伸び、竜舌蘭に埋もれた地下から漏れひびく巨人の呻き。天宙にはかしましく飛び交う天使たち……と、……なに?
「中沢、変更しちゃいます」 
「朗読内容、変更しちゃいます」耳を疑う観客一同。
「教科書が今さっきできあがったの。で、こっちやります」どよめく会場。
 そうなのです。作品が掲載された教科書が、できたてホヤホヤで届いたのであります。おーっと、これまた大お年玉。本邦初の教科書朗読。さらに著者自身による貴重な朗読。まだ誰も見ても読んでもいない教科書。ちなみに、これは冒頭の頬楽し女史からのものだそうです。

 朗読会がこれで終わってしまうのだろうかと、誰もの内心に一抹の寂しさを投げかけつつ、中沢けい朗読が進んでいくのでした。なにを思い、なにを感じながら、いま朗読にあるのでしょうか。今日の朗読会にどのような思いを馳せているのでしょうか。などと詮索するのは実に愚かなことです。それどころではないのです。まあまったく、ただただ楽しんでいるだけなのです。そういうお人なのです。 て、中沢さん、違ってたらごめんなさーい。
 そしてついに、第1回「豆畑の朗読会」は全朗読を終えたのです。そのあとのパーティも最高でした。酔いました。はじめから酔ってましたけど。いずれにしても、大成功おめでとうございます。次回開催が待たれます。豆蔵さん、頑張ってください。

 と、これで終わったかに思えた朗読会。なんと二次会があったのです。でも私はただ酔っただけですし、ひたすら長文駄文になっていますので、ここでは割愛。最後になりましたが、銀座「きらら」で銀恋をデュエットしてくださった中沢さん、ありがとうございました。豆蔵さん、未卯さん、お疲れさまでした。出演された皆さん、そして貴重な時間をご一緒できた観客の皆さん、感謝。またお会いできる日まで、さようなら……なお、このレポートには脚色された部分がありますのでご了承ください。そんなこと言われなくとも知っとるわい、てその通りでございます。

打ち上げでの記念撮影。最後まで愉快な朗読会でした。

 (まにえりすとQ・詩と小説のQ書房主宰)→Q書房
 写真:中沢けい・豆蔵

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